on
VRの分子viewerを試す
VR分子viewerをいろいろ試した記録
分子viewerとは
分子がどんな姿をしているかわかると、物質の性質の一端に説明がつけられたりして嬉しいことがある。たとえばDNAが何で遺伝物質として機能できるのか説明がついたりする。しかし、一個一個の分子はあまりに小さすぎて人の目には見えない。そのため人類は、いろいろな実験で得られる情報から分子の構造(形)を導き出す技術を養ってきた。分子viewerというのは、そうやって作られた分子の「モデル」を画面上に表示するためのソフトを指す。普通は二次元の画面に分子の姿が描画されて、それをマウスでぐるぐる回して分子の構造を眺めることになる。
余談だが、なぜviewerって英語で書いてるかというと、ビューワー、ビューアー、ビューアとか表記揺れが激しくて落ち着かないからだ。じぶんはビュアーって書いてたんだけど、なんか自信がなくなったのでviewerに統一した。
2Dのviewerを使う
2Dの分子viewerがどういうものか手っ取り早く知りたい人は、以下のリンクからPDBjのサイトに行こう。
PDBj:緑色蛍光タンパク質の構造
リンクを開くと、ブラウザ上でMolmilというviewerが起動して分子構造を見せてくれる。ここで好きなだけ回したり色を変えたり表現方法を変えたりできる。自分はこういうの気にするタイプなので書いておくが、このviewer上で何をしてもデータベースの元データに何の影響も与えないから、好きなだけいじくりまわして大丈夫。私は昔このてのサイトにたどり着いてみたものの「なにこれ怖い」ってなってブラウザを閉じた思い出がある。
ふだん私はPyMOLやRasMolをよく使う。用途によって他のも使う。この辺りは使う人によって主義があるようで、エディタほどではないが色々ややこしくなりがちなので今回は深入りしない。
VRの分子viewerを試す
自分の研究の内容上、あまりに二次元の分子viewerをつかいすぎる。それに倦んできたのでVRのviewerを試した。試した順に書くが、実はあまり選択肢がない。あと、VRのソフトを操作するのには独特の慣れが必要な感じがあり、まだ全然操作方法に習熟してない。
今回の使用機材はOculus Rift + Touchで、Windows10の入ったPCを使っている。再び余談だが、以前学会でHMDを被ってeF-site的なものやるデモを体験させていただいたが、あのときの機材は何だったのだろう。Viveだっただろうか?
また、画面の様子などを示す画像があると親切なのだろうが、VRの画面キャプチャってあまり意味がない気がしたので割愛する。
ChimeraX
ChimeraXはChimeraの後継として開発されているようだ。ChimeraXにはVRモードがあり、普通に2Dの画面で分子の表示などを済ませた後、コマンドでvrモードを起動して、HMDを頭にのせるとVRで分子モデルをぐるぐる回せるようになる。Chimera的な綺麗な分子モデルがVR空間に現れるので、かなりよい。とくにcartoonやstickは現実には金属でなければ作れないような華奢さで、極めてかっこいい。
Steam VRが必要。
ChimeraX https://www.rbvi.ucsf.edu/chimerax/
VR mode https://www.rbvi.ucsf.edu/chimerax/docs/user/vr.html
Meeting modeというのもあるのだがVR装置が二台必要なのでちょっと試せてない。
Nanome
これはNanomeという会社が開発しているVRviewer。基本的にVR専用ソフトとして開発されており、VRの分子viewerとしては現時点でおそらく最も機能性が高い。VR空間に操作パネルが出てきて、それを使ってviewerを操作する。機能制限のかかった体験版は無料で利用可能。
Nanome https://nanome.ai/nanome/
OculusStoreやSteamから入手可能
試したか、試そうとしたもの。
PyMOL
VRモードがあるらしい。また試したら書く。
VMD
ずいぶん昔からVR的なものを指向していた気がするが、今どうなっているのだろう?今回は試してない。
UnityMol
VRモードがあるらしいのだが、起動方法がわからない。
そのほか
そのほかにもVR分子viewer的な雰囲気を醸し出しているものは、ソースからビルドするなどして可能な限り試したが、上記にあげたChimeraとNanome以外はちゃんと動かせていない。まだ探せばあるかもしれない。
VRviewerは良い
普段からviewerを使ってるひと向けだが、今回感じたVRの分子viewerの良さについて説明する。
1. 奥行きの感覚
VRだと「目の前にある」感がすごい。よくわからないが目の前にある。
2. 分子をぐりぐり回す感覚
ふつうの分子viewerで分子を見る場合、マウスでカチカチ画面をつついて分子を回す。これでも十分だが、適切なコントローラーを備えたVR装置(と、接触に対する応答を適切に実装したソフト)だと、自分の手で分子を触っている感覚がある。腕全体をつかう操作手法が、視覚的な奥行きの感覚を増強するように感じる。多分このへんはコントローラーのないHMDだと味わえない。
3. 存在感
ふつうのviewerを大きなスクリーンに映しても「絵がでかくなったな!」という感慨が強いだけだが、VRのviewerで分子を拡大すると確かにモノが大きくなった感じがする。細かいところを見る時には便利だと思う(モデルの細かいところを見る意味があるかは、また別の問題)。
VRviewerは分子模型に比べても良い
プラスチックとか石膏でできた分子模型に比べた時にも良いところがある。
1. つくる手間がない
3Dプリントふくめ、模型製作にはいろいろ手間がかかるので「今日公開の構造全部見る」とかはむずかしい。VRならやろうと思えばできる。根性で。
2. 見た目が良い
リアルなモデルには強度的な制約があるので、極細のbond表示のモデルみたいのを作るのは難しい。VRだと針金みたいなstickモデルとかを見れてかなり良い。
3. サイズや表現が可変
リアル模型は一旦出力したらサイズも表現も変えられないが、VRだといずれも可能。とくに拡大縮小が自由なのが最高。
4. こわれない
リアルな分子模型の最大の問題は、容易に壊れるので腰が引けてしまうところだ。ちょうど、完成したプラモデルを持つ時のような感覚といえばいいかもしれない。私は発表のために分子模型を持ち運ぶさい、かなり厳重に梱包したにもかかわらず一部折れてしまってがっかりしたことがある。
既存の手法へのフォロー
VRviewerは面白いが、操作性や機動性の面でまだ制約が多く。既存手法を完全に置換するわけではない。機材の準備がめんどくさいし。
2D viewerの良さ
やはり2Dviewerは軽量で操作性がたかい。キーボードからコマンドで操作することが多いので、このあたりの機動性の高さは捨てられない。
3Dプリントしたモデルの良さ
人に見せる時はこの方がやりやすい。あと改めて感じたことだが、リアル物体なので歪めたりできるのがよい。今後は硬質プラスチックではなく、ビニールみたいなブヨブヨした材質で印刷して潰したり捻じ曲げたりして遊べるほうが、リアルモデルとしての意味がありそう。
VRviewerについての考察
VR分子viewerの方向性
2つの方向性があるようだ。
まず、ChimeraXみたいに「普段は普通のviewerとして使っていて、ある局面だけVRのステレオ表示で分子をみる」というタイプ。普通の作業の中で「ちょっとVRで構造をみたい」的な使い方になる。いままで使ってみた感じだと、描画を変える時には一旦HMDを脱がないといけない。これはすこしめんどくさい。おそらく、pymolのVRもこういう感じだと予想している。
もう一つは、Nanomeみたいに「全操作をVR内部で完結する」というタイプ。こちらは起動してHMDを被ったら以後着脱しなくても良い。しかし、完全にGUIだけでいろいろやるので、UIに慣れないと細かい操作が難しい。私的にはこちらの方向性のソフトが増えて欲しいので、今後の入力系統の発展に期待したい。視線入力とか音声入力が今後導入されるのだろう。
VR機材そのものの問題
- 買うのに勇気がいる(自分のやりたいことができるかわからない)
- 着脱がめんどくさい
- 化粧する方は、化粧崩れが気になるだろう
- めがね
- 疲れる(とくに首が・・・)
結論
VRの分子viewerで分子をみると新鮮な気持ちになれる。個人的には実用性は十分にあると思うけど、普及するかは謎。